中山七里さんの小説といえば、鉛のような塊に心を押しつぶされそうになるほどの重たいテーマ。そして登場人物達の心の叫びがリアルに聞こえてきそうなほどの緻密な心理描写。さらには読み手の心を遠慮なくえぐり、何回も切り裂いてくるストーリー展開が特徴的です。
今回はそのダークさがより際立っている作品をまとめてみました。また、中山七里さんの小説は別の物語の主人公が登場したりと、その世界感はつながっています。そういった観点からも楽しめると思います
夜がどれほど暗くても
犯罪加害者の家族という視点で、おそらく真に何処かにあるであろうリアルとして描かれているこの小説。ミステリーの側面はありますが、犯罪加害者としての生き方、そして息子への懺悔がテーマにあるように思えます。読後感も良く、おすすめです。
テミスの剣
冤罪がテーマ。警察官としての矜恃と、組織の論理の狭間でもがく主人公。法の番人は神のごとく万能なのか。正義とは何か。組織の正義の中で自分の正義を貫こうともがく主人公。果たしてテミスの剣は誰に振りかざされるのか。
アポロンの嘲笑
東日本大震災、原発事故をテーマにしたサスペンス。東日本大震災からまだ5日後、管内で殺人事件が発生。刑事である仁科と、被疑者で逃亡中の加瀬の視点が交互に描かれ物語が進んでいきます。自分の命以上に大事な家族という存在、そして自分という存在もまた家族にとっては大切な存在であるはず。だから自分も生きなければいけない。そんな生への執着の物語です。
セイレーンの懺悔
報道の在り方とは。ジャーナリストの矜恃とは。その与えられた力の巨大さ、その重責に抗おうとする主人公の葛藤と苦悩が描かれています。
翼がなくても
不運な事故で片足を失ったアスリートが、その絶望の淵から這い上がっていく様を描いた物語です。社会的弱者への差別とは何か。安易な同情や稚拙な共感は時に弱者の心をえぐる。そこに悪意がなければなおさら怒りの矛先を失い、絶望するしかない。他人の人生の辛さなんてものは、例え親だろうが分からないし、簡単に介入していいものではない。この小説はそんなダークで重苦しいテーマを突きつけてきます。読んでいて心を鬱々とさせる感じ、でも知らぬ間に物語に引き込まれている感じはさすが中山七里さん、おすすめです。
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